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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)21号 判決 1987年8月24日

京都市中京区夷川通室町東入鏡屋町五〇

原告

森下三郎

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五

被告

中京税務署長喜多村和夫

右指定代理人

松本佳典

足立孝和

西田饒

中西俊章

滝川通

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五七年二月二七日付でした原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の更正処分(ただし、昭和五三年分及び昭和五四年分については審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  原告は、肩書住所地において紳士服及び紳士物用品雑貨の小売販売業を営む者であるが、被告に対し本件係争年分の確定申告をした。

被告は、昭和五七年二月二七日付で原告に対し本件更正処分(以下、本件処分という)をした。

原告は、本件処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

以上の経過と内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかし、本件処分は左の理由で違法である。

(一) 被告の部下職員は、原告に対する税務調査にあたり、事前通知をしないで原告方に臨場し、調査の理由を開示しなかった。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

よって、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は認め、2の事実は争う。

三  抗弁

1  被告の部下職員は、昭和五六年九月三日から三回にわたって原告方に赴き、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。しかし、原告は、民商会員と称する者を同席させ、「調査理由が納得できない。帳簿書類及び原始記録の保存はない」等と言って、帳簿資料を提示せず、調査に応じなかった。

その為、被告はやむなく反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をしたのであって、本件処分に手続的瑕疵はない。

2  原告の本件係争年分の所得金額は、別表2記載のとおりである。これを詳述すれば、

(一) 売上原価の明細は、別表3記載のとおりである。

(二) 同業者の選定と同業者率の算定は、次のとおりである。

被告は、原告の事業所(店舗)の所在する中京税務署管内の事業者の内から、本件係争年分で次の条件に該当する青色申告納税者を抽出したところ、別表4記載のとおりの申告事例を得た。

(1) 紳士服及び紳士物用品雑貨(紳士物身のまわり品雑貨を含む)の小売業を営んでいること。

(2) 他の業種を兼業していないこと。

(3) 年間を通して事業を継続していること。

(4) 所得税について不服申立又は訴訟係属中でないこと。

(5) 売上原価が、

昭和五三年分については五八〇万円から一七三〇万円まで

昭和五四年分については五四〇万円から一六二〇万円まで

昭和五五年分については五九〇万円から一七四〇万円まで

の範囲にあること(上限は原告の売上原価の一五〇%、下限は同五〇%として算定した基準である)。

右同業者は、営業地域、営業形態、営業規模、取扱商品等の点で原告の事業と類似性があり、これらの同業者は青色申告納税者であるから、その数値は正確である。従って、右同業者から同業者率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。

なお、税理士報酬は、特別経費とみて、一般経費算出の基礎とはしていない。

(三) 地代家賃

原告は、肩書住所地の店舗兼住宅(一階が三九・〇〇平方メートル、二階が三九・三〇平方メートル)を賃貸し、一階部分を店舗として使用し、賃借料として昭和五三年中に一一万五二〇〇円を、昭和五四年中に一三万二〇〇〇円を、昭和五五年中に一四万四〇〇〇円を支払っている。そこで、その事業専有割合を五〇%と認め、別表2記載のとおりの地代家賃を経費とした。

(四) 事業専従者控除は、別表2記載のとおりである。

(五) 原告主張の売上金額は、その根拠が不正確で、原告の売上金額の全てではない。

3  以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得は、別表2記載のとおりとなり、本件処分を上回っており、本件処分は適法である。

抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、「帳簿書類及び原始記録の保存はない」と言ったとの点は否認する。

2  抗弁2の事実中、

(一) 売上原価は認める。

(二) 売上金額と一般経費は否認する。

原告の売上金額は、別表5記載のとおりであって、これは売上帳(甲二号証)に全て記載されている。

また、被告主張の同業者は訴外井藤要一郎が提起した京都地方裁判所昭和五八年行ウ第二九号所得税更正処分取消請求事件で被告の主張する同業者と同一であるが、原告と井藤とは営業規模、業態、立地条件等が全く異なり、類似同業者として比較できないから、被告主張の推計には合理性がない。

同業者の税理士報酬を明らかにし、一般経費率算出の基礎とするべきである。

(三) 地代家賃は認める。

(四) 事業専従者控除は認める。

第三証拠

記録の中の証拠に関する調書に記載のとおり。

理由

一  原告が肩書住所地において紳士服及び紳士物用品雑貨の小売販売業を営み本件係争年分の確定申告をしたこと、被告が本件処分をしたこと、原告が本件処分に対し異議申立及び審査請求をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件処分と推計課税の必要性

原告は、被告の部下職員が事前通知をしないで原告方に臨場し、調査の理由を開示しなかったから、本件処分が違法であると主張する。

しかし、原告は、被告の部下職員が昭和五十六年九月三日から三回にわたって原告の事務所に赴き、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたのに対し、民商会員と称する者を同席させ、「調査理由が納得できない」等と言って帳簿資料を提示せず、調査に応じなかったことを明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。

そして、このように原告が帳簿資料に基づいてその事業内容を説明せず、調査に協力しなかったからには、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をするも止むを得ないものがあったと言うべきである。税務調査にあたり第三者の立ち会いを認めるかどうかは担当職員の裁量に委ねられているところ、本件において第三者の立ち会いを拒んだことが調査の違法理由になると認めるべき事実の主張立証はなく、また、調査のため原告方に臨場するにあたって事前通知をせず、具体的調査理由を開示しなかったとしても、だからといって調査が違法になるものでもない。

三  推計の合理性と所得金額の認定

1  原告の売上原価が別表3記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

原告の妻である証人森下カズコの証言によれば、原告は、昭和三五年頃から肩書住所地にて「エビス洋服店」との屋号で紳士服、紳士物用品雑貨の小売業を営み、妻カズコもこれに従業していることが認められる。

2  同業者率について

(一)  証人岸本卓夫の証言により真正に成立したと認める乙二号証、三号証、八号証の一及び二並びに同証言によれば、被告がその主張するとおりの基準で別表4記載の同業者の申告事例を抽出したことが認められる。

(二)  右同業者は、その抽出基準に照らし、営業地域、営業形態、営業規模、取扱商品等の点で原告の事業と類似していると認められ、かつ、無作為に抽出されたもので、青色申告納税者でその数値は正確であると認められるから、これら同業者から原価率及び一般経費率を算定し、これを原告に適用することには合理性があるとしなければならない。

なお、税理士報酬について検討するに、右抽出基準のごとき営業者にとって税理士報酬を支払うことが一般的であるとは認め難いし、成立に争いがない乙四号証ないし六号証によれば、原告は本件係争年分において税理士報酬を支払っていないものと認められるから、本件においては、これを一般経費率算出の基礎としないことに理由がある。

(三)  右同業者の原価率及び一般経費率に基づいて原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、別表2記載のとおりとなること計数上明らかである。

(四)  原告の主張する売上金額について、

原告は、本件係争年分の売上金額が別表5記載のとおりであったと主張する。

しかし、証人森下カズコは、その供述に一貫しないところもあるが、原告がその主張の根拠としている売上帳(甲二号証)につき、毎日記帳されたものではなく一か月毎に納品書及び備付のレジスターのレシートから記帳したものであり、これより得意先別売掛帳に転記すると供述している。そこで、甲二号証とこれら帳票類とを対比してみると、甲三号証二一丁目には昭和五十五年一月八日に森口に対しセーター一枚代金額八五〇〇円の売上があったとの納品書が存在するにもかかわらず、これに対応するべき甲二号証六七丁目に右売上の記載がなく、甲三号証二二丁目には昭和五五年一月二二日に京都スポーツに対しトックリ一枚代金額六八〇〇円の売上があったとの納品書が存在するにもかかわらず、これに対応するべき甲二号証六七丁目に右売上の記載がなく、甲三号証二四丁目には昭和五五年一月二五日に奥村桂一に対しタートルセーター一枚代金額一万二五〇〇円の売上があったとの納品書が存在するにもかかわらず、これに対応するべき甲二号証六七丁目に右売上の記載がなく、甲三六号証の得意先別売掛帳には昭和五五年四月三〇日に今村に対しカッター一枚代金額二九〇〇円の売上があったとの記載があるにもかかわらず、これに対応するべき甲二号証六七丁目、同一二七丁目に右売上の記載がないことなど、甲二号証の記載には対応に欠けるところがあると認められ、その記載には疑問がある。

また、証人森下カズコは、右売上帳の原本という台帳が存在すると供述する(同証人昭和六〇年一〇月九日付証人調書一八丁)ところ、原告はこれを証拠として提出しない。

更に、店舗での売上を漏れ無く記録したという甲一二号証ないし二〇号証(レジスターのレシート)も、その日付、品目等の記載が不備な、極めて粗雑なものであって、前記売上帳(甲二号証)との関連を明らかにし難く、原告主張を裏付け得るものではない。

証人森下カズコの証言は、掛売り先の住所、氏名についても「分からへん人が大方です」と答えるなど、誠実に包み隠すことなく供述したものとは認められず、到底信じることができない。

原告の申告によると、原告は年間約一〇〇万円の所得しかなかったこととなるが、これでは原告ら家族の生活を維持することが困難であるにもかかわらず、その生活費の出所が明らかにされていない。

以上によれば、原告が売上金額の一部を秘匿していると疑うに足る合理的事由があると思料される。

結局、原告の売上金額の主張をもってしては、前記推計の合理性についての判断を左右するに足りない。

3  地代家賃は、被告主張の範囲で当事者間に争いがなく、右を越える額を認めるに足る主張立証はない。

4  事業専従者控除は、当事者間に争いがない。

5  以上によれば、本件処分は、右に認定した事業所得金額の範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表 1

申告・更正等の経過

<省略>

別表 2

総所得金額の計算

<省略>

別表 3

仕入金額一覧表

<省略>

別表 4

同業者の原価率及び一般経費率表(昭和53年分)

<省略>

同業者の原価率及び一般経費率表(昭和54年分)

<省略>

同業者の原価率及び一般経費率表(昭和55年分)

<省略>

別表 5

昭和53年分(別紙 1)

<省略>

昭和54年分(別紙 2)

<省略>

昭和55年分(別紙 3)

<省略>

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